有珠山2000年噴火の推移

北海道大学大学院理学研究科教授  宇井忠英


1.はじめに

 有珠山の噴火が始まってから既に半年が過ぎ,早くも噴火は終息に向かっている.噴火予知連絡会は噴火開始前に有珠山の2000年噴火を予告する情報を発表した.こうした噴火情報が事前に流されたのはわが国では初めてであった.地元の自治体は即座に避難を開始した.実際に災害が起こった場所は大規模に避難が求められた割には限られており,溶岩ドームは地表に現れず,火砕流は発生しなかった.この講演では噴火の推移を振り返りつつ,今後に向けての問題点も探ってみたい.

2.30−50年周期説

 有珠山では今回の噴火の前に地元では,30-50年周期で噴火が起こるだろうといわれていた.有珠山は約7000年ぶりに噴火を再開した1663年以降溶岩ドームを作る噴火を繰り返し,1977-78年噴火までに噴火記録は7回あった.その間隔は106年空いた1回を除いて31-57年の間に収まっていた(図1).これが30-50年周期説の根拠であった.しかし江戸時代の全ての噴火に対応する古文書が残っていると信じて良いのだろうか?江戸時代の4回の噴火記録はすべて住民に犠牲者が出たり,家が焼けたり,避難行動をとったりした事例である.

図1 有珠山の噴火履歴.壮瞥町(1999)噴火に備えて

 過去の噴火履歴を探るもうひとつの手法は,火山噴出物の調査から噴火の編年を行うことである.しかし,今回の噴火のように火山灰の噴出量が少ないと堆積物が地層として残らず,後にその証拠を見出すことは困難である.国土地理院が今年出版した火山土地条件図によると,有珠山とその周辺には溶岩ドームと潜在ドーム地形が17箇所認識できる(図2).1944-45年噴火のように屋根山と昭和新山の2つのドーム地形が一つの噴火で出来てしまう事例もあるが,7回という噴火記録よりは17箇所は多すぎるよう長すぎるようである.いずれにしても噴火はきちんと周期的には起こらないので,次の噴火は西暦2022 年より後に起こるなどというように次の噴火時期を長期的に特定することはできない.

図2 有珠山の溶岩ドーム(赤)と潜在ドーム(ピンク)の分布.国土地理院(2000)火山土地条件図有珠山

 
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2000年12月,日本火山学会: kazan@eri.u- tokyo.ac.jp