アフリカの火山・東北の火山

東北大学大学院理学研究科教授  浜口博之


1.はじめに

 長い地球の歴史の中で,人間が地球上で生活できる環境を作るのに火山は大きな役割を果たしてきました.生命の源となる水や大気は火山活動の結果生まれたものです.有用な鉱物を地表付近に集積したり,肥沃な土壌を作り出したり,地熱エネルギ_や温泉の恵みを与えてくれたり,火山の様々な活動は今日の私たちの生活と深く関係しています.その一方で,地球上の人口の増加に伴って火山の近傍で生活する人が増えると,噴火に伴う災害というマイナスの面も顕在化してきました.そこで,火山活動の仕組みを知り火山とどのように付き合っていくか考えてみることも必要になってきました.そのためには,地球上でみられる多様な火山現象に触れることが重要です.今日は,身近な東北地方の火山と遠く離れたアフリカの火山の比較の話をいたします.アフリカの火山の調査を始めてずいぶん時間がたちますが,はじめの頃は,周囲の人から「日本にはたくさんの火山があり,研究材料には事欠かない状況なのに,なぜ,遠くアフリカまで行って火山の観測をするの?」という質問を受けました.今思い出すと当時はこの質問にきちんと答えられなっかたように思います.その答えを求めて,コンゴ(旧ザイール),ルワンダ,ケニアなどの国々に何度も調査に出かけました.

2.地球上の3種類の火山

 地球上には800くらいの活火山があります.そのうち,およそ50の火山が毎年どこかで噴火しています.地球上の火山の大半は,太平洋を取り囲むように,ニュージーランド,インドネシア,フィリピン,日本などの島弧と北米,中米,南米の大陸の縁にそって帯状に分布しています.その他に地域では,地中海,アイスランド,アフリカ,ハワイなどに火山活動が知られています.大陸の内部には活動的な火山はあまり見られません.例外はアフリカと南極の大陸です.火山のこのような地域的特徴は昔から知れていたことですが,その意味することが理解できたのは1960年代後半に提案されたプレートテクトニクス以来です.
 プレートテクトニクスによると,地球の表面は10枚ほどのプレートと呼ばれる巨大な岩盤で敷き詰められたような状態になっており,プレートとプレートの境界で地震や火山の活動が起きていると説明されます.日本を含む環太平洋の島弧や大陸の縁では,海洋性の太平洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいます.その際,大量の水がプレートとともに地下深く運ばれ,その水が島弧の下で放出されることによりまわりの岩石を部分的に溶かしてマグマを作ると考えられています.そのマグマが時間をかけて集積し地表に到達すると東北の火山で見られる噴火を起こす原動力になります.このようにプレートの沈み込みに伴う火山を「島弧型火山」と呼びます.一方,プレートとプレートがお互いに離れるような地域では,その隙間を埋めるように下からマントルの物質が上昇してきます.大西洋,インド洋,太平洋の海嶺(リッジ)がこのような場所にあたります.そこにはたくさんの海底火山が活動しています.これらの火山を「海嶺型火山」と呼びます.深い海の底での出来事だので噴火の実体はよく分かっていません.以上の2つのタイプの火山は,プレートの境界に位置するもので「プレート境界型火山」とも呼ばれています.地球上にはプレートの境界から離れた場所にも活動的な火山があります.その数は多くはありませんが,ハワイやアフリカ・南極大陸の火山がこれに当たります.このような火山は,「ホットスポット型火山」と呼ばれています.タイトルにつけた「アフリカの火山・東北の火山」という表現は,「ホットスポット型火山・島弧型火山」と言い替えることができます.2つのタイプの火山の比較を行うことによって地球上の火山に対する理解を深めることができます.

3.東北の火山

 我が国には世界の約1割にあたる86の活火山があります.そのうち16の火山が東北地方にあり,脊梁山脈とその西側に分布しています(図1).山形県には,県境に鳥海山,蔵王山,吾妻山の3つあります.東北地方の活火山の分布の東の端を結んだ線を「火山前線」(volcanic front)と呼びます.この前線は太平洋プレートが日本の下に沈み込んでいる日本海溝とほぼ並行になっています.このような分布の類似性からも東北地方の火山は,プレートの沈み込みと密接に関係していることが分かります.東北地方の地下の構造をちょうど医学で使われているCTスキャンの原理と同じ方法を使って調べると,活火山の下では,地震波の速度が遅く,少し高温の状態にあることが分かってきました.その結果などから地下100〜150kmの上部マントルと呼ばれるところの岩石が部分的に融解している様子が読みとれます.このような深いところで生まれたマグマが集積し,大きなマグマ溜まりを作り地表に達したものが噴火となります.東北地方の活火山は,噴火から次の噴火までの期間が長いこと,すなわち,静穏期の長い火山が多いという特徴があります.最近,地震活動が活発化している岩手山でのもっとも新しい噴火は,1919年(大正9年)の水蒸気爆発を伴うものでした.その前の噴火は,江戸時代の1732年の噴火(焼走り溶岩)までさかのぼります.このように静穏期が100年以上の火山が多いのが東北の活火山の一つの特徴です.噴火の様式としては,水蒸気爆発が引き金になって山体崩壊を伴った火山が多いのも東北地方には多く見受けられます.上述の岩手山では,過去に7回の山体崩壊があったことが知られています.また,鳥海山でも約2600年前に山体崩壊があったことが分かっています.元禄2年に芭蕉が詠んだ詩の中に出てくる象潟の島々は,実は鳥海山の山頂近くから流れ下ってきた「流れ山」の地形なのです.最近では,今から110年前の1888年(明治21年)に磐梯山で大規模な山体崩壊がありました.大きくえぐられたU字型の火口が当時の噴火の規模を物語っています.大量の岩石が北麓を流れ下り,せき止められた川には檜原湖などの湖が出現し,今日の景観が作られました.

図1 東北地方の16の活火山の分布.

4.東アフリカの地形

 アフリカ大陸の地形的な特徴の一つには,東アフリカ地域のさしわたし2000kmに達する広範囲な隆起地帯(ドーミング)とそこを南北に走る大地の巨大な割れ目(東アフリカ地溝帯)があげられます(図2).割れ目の底は湖となり,地図を見ると大小の湖が連なっていることが見て取れます.東アフリカ地溝帯は,エチオピア・スーダン・ケニア・タンザニアにまたがる東部地溝帯(グレゴリーリフト)とウガンダ・コンゴ・タンザニアの国境にそった西部地溝帯に分けられます.今から2000〜6500万年前には,エチオピアからケニアかけての地溝帯に沿った割れ目から大量の玄武岩質マグマが何回にもわたって噴出し,平坦な溶岩の大地を作りました.その溶岩の総量は,400,000km3と推定されています.このように地質時代には,莫大な量のマグマが地下から供給されたことが分かってきました.そような活動の後に,噴火活動が続き地溝帯の内外に大小の火山が出現しました.万年雪を頂くタンザニアのキリマンジャロ山(5895m)も火山活動でできた山です.この火山はアフリカ大陸の最高峰をなしています.ユーラシアなどの5大陸の最高峰がみな非火山的な成因による山であるのとくらべると,アフリカ大陸の火山活動の一端を伺い知ることができます.

図2 東アフリカ地溝帯と火山活動.3000km以上に渡って大地の割れ目が続く.星印は火山、実線は地溝帯の断層、網掛けは地質時代に溶岩で被われた台地、破線は国境を示す.

5.アフリカ大陸の中のハワイ式噴火

 西部地溝に沿ってタンガニーカ湖(最高水深;1470m)などの5つの大きな湖があります(図2).その中でもっとも標高の高い所にキブ湖(標高;1470m)があります.この湖は,水中にメタンガスが大量に溶け込んでいるため,魚が住めない特殊な環境下にあります.この湖の北岸に,図3に示すようにニイラゴンゴ火山(Nyiragongo,標高;3470m)とニアムラギラ火山(Nyamuragira, 3056m)があります(写真1).ニイラゴンゴ火山の火口には,40年以上にわたり永続的に溶けた溶岩の湖が存在しています.これを溶岩湖 (lava lake)とよんでいます(表紙写真参照).すぐ隣のニアムラギラ火山では,今世紀だけでも25回の噴火が確認され,およそ4年に1度の割合で噴火が起きています.これらの火山の東側には,さらに6個の火山が点在し,ビルンガ火山地域と呼ばれるスケールの大きな火山群を形作っています.赤熱の溶岩湖の湖面が沸騰し,猛烈な勢いでガスを噴出させているニイラゴンゴの火口を初めて見たのは1972年のことでした.この溶岩湖の昔の姿が100年前にここを訪れたドイツの探検家G. von Geotzenによってスケッチとして残っています(図4).1894年には湖面が最高位に近い状況であったことが伺えます.タジエフ博士や私たちの調査結果をもとに今世紀の中頃から今日までの溶岩湖の湖面の変遷の様子を作図しました(図5).50年間に湖面は実に700mも上下変動していることが分かります.1977年1月の噴火は,溶岩湖に貯えられた1900万立方メートルものマグマが,山腹にできた2つの割れ目を通じて一瞬の流出するという特異なものでした.山麓を流れ下る溶岩の速度は40〜60km/hという大変な高速ものであったと報告されています.溶岩流に直撃された大木は,その熱で一瞬のうちの燃焼し,溶岩が流れ去った後には固化した煙突のような溶岩の樹型が残されました.写真3は,1977年の秋に撮ったニイラゴンゴ北西麓に残された溶岩樹型 (lava tree mold)を示す大変めずらしい風景です.乱立する樹型で高いものは5mほどあり,少なくても同程度の厚さを持った溶岩流が瞬時に流れ下ったことを物語っています.噴火の後の溶岩湖は,深さ800mの巨大なすり鉢状の空洞に変わりました.しかし,それから5年後に再び溶岩で満たされ,4ケ月間に深さ400mの溶岩湖が出現した.この時のマグマの噴出率は2.5x1063/日と推定されています.溶岩湖は継続的に地下から供給されているマグマを直接的に観察することのできる研究上重要な場所ですが,地球上には数カ所しかありません.

図3 西部地溝帯に発達したビルンガ火山群.その西端に活動的なニイラゴンゴ火山とニアムラギラ火山がある.
写真1 ニイラゴンゴ火山(左、標高2470m)とニアムラギア火山(右、標高3056m).ニアムラギア稜線の小さな起伏は側噴火によるスコリア丘.バナナ畑の先の森林は旧い溶岩流の上に発達したもの.

図4 探検家G. von Goetzenによる100年前のニイラゴンゴの溶岩湖の活動を示すスケッチ.表紙の写真と比較すると今日の溶岩湖の様子ときわめて似ていることがわかる.
図5 ニイラゴンゴ火山の溶岩湖の湖面の変動.1977年の噴火で溶岩が流出し、約5年間、溶岩湖は空の状態が続いた.そして1982年に再び溶岩で満たされた(写真2参照).過去に溶岩湖の固化した湖面がテラスとして残っている位置を上から第1、第2、第3テラスと呼ぶ.

写真2 活動的になったときのニイラゴンゴ火山の溶岩湖の夜景.1982年6月村上栄寿氏撮影

写真3 ニイラゴンゴ火山の1977年1月の噴火で生じた北麓の溶岩樹型.高いものは5mに達する.1977年9月撮影

 ニイラゴンゴ火山の北西14kmの位置にニアムラギラ火山では,上述のように1900年以降25回の噴火が知られています.溶岩は粘性の小さな玄武岩質で,山麓で噴火が開始すると数日間で長さ10〜20kmの溶岩流ができます(写真4).最近の10年間の平均マグマ噴出率は1053/日と推定されました.ニイラゴンゴやニアムラギラ火山の噴火様式は,ハワイのキラウエアやマウナロア火山の様式とよく似ています.なぜアフリカ大陸の中にもハワイと同じタイプの火山活動があるのでしょうか?アフリカ大陸にホットスポット型火山が多いということに対して2つの解釈が出されています.その1つは,地球上の全ての大陸が過去には1つの超大陸(パンゲア)作っていたが,この超大陸がちょうどこたつの掛け布団の役目を果たし,超大陸の下の熱を閉じこめてしまった.そのために超大陸の中心にあったアフリカ大陸の地下が熱くなりマグマができたいう考え方です.もう一方の解釈は,マントルの最下部深さ2900kmあたりからわき上がるプリューム (plume)と呼ばれる高温の局所的な上昇流がアフリカ大陸の下にあり,その熱でマグマが作られるというものです.マントルの地震波の最近の研究などから後者のプリューム説がだんだん有力になってきました.アフリカ大陸と太平洋の下には巨大なマントル・プリュームがあり,その熱がニイラゴンゴやハワイのホットスポット型火山の源であると解釈されます.ニイラゴンゴ火山のちょうど反対側にハワイの火山が位置します.遠く離れた2つの地点に性質のよく似た火山があるというのは偶然の出来事ではなく,地球の内部の悠久の営みの結果であることが少しずつ明らかになってきました.

写真4 ニアムラギラ火山の側噴火ミコンベから流れる溶岩流.粘性が小さいため水のように流れ、溶岩流の先端は火口から20kmの距離に達した.1991年11月林信太郎氏撮影

6.まとめ

 東北の火山とアフリカの火山の比較を通じて分かったことをまとめます.
(1)東北の火山のような島弧型火山は,プレートの沈み込み伴って生成されたマグマに起因しています.東北の火山の特徴は,深さ100〜150kmの上部マントルの比較的浅い所の物質や状態を反映しています.マグマの組成や粘性は場所によって変化し,そのため噴火様式は溶岩流を出するものから爆発的なものまで多様な形態が見られます.
(2)アフリカの火山は,ほとんどがホットスポット型火山に属し,マントルの下部の深さ2900kmあたりから上昇する巨大なマントル・プリュームの熱源に由来しています.マグマの組成は,玄武岩質で粘性も小さく,一度に多量の溶岩が噴出することがあります.溶岩湖は,火口に向けて継続的に玄武岩質マグマが供給されている火山での特殊な噴火様式で,東北の火山では見ることができません.
(3)地球上の火山活動は,大きく分けると3種類のタイプがあります.それら火山のダイナミクスや組成の違いを知ることによって地球内部の構成や営みのについての理解が深化してきました.


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1998年9月,日本火山学会: kazan@eri.u- tokyo.ac.jp