噴火予知と火山防災

東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター 浜口 博之


1.多様な火山活動

 地球上には約800もの活動的な火山があります。その約1割にあたる86の活火山が我が国にありますが,このうち,磐梯山,吾妻山,安達太良山,燧ケ岳,那須岳の5つの活火山が福島県に位置しています。福島県は日本の中でも活火山の多い県です。これらの火山では,明治以降100年以上も大きな噴火はなく静穏な状態が今日まで続いてきため,観光地として開発されてきました。火山噴火は希にしか起きないため,噴火などのマイナス面をともすれば忘れがちです。寺田寅彦は「災害は忘れた頃にやって来る」と警句を残しました。また,災害について「文明が進めば進むほど,自然の暴威による災害がその劇烈の度を増す」とも言っています。突然おそってくる火山災害から身を守るためには,日頃から火山の活動や防災に注意を払っておくことが大切です。

 マグマは長い年月をかけてゆっくり上昇し,火山の直下の深さ3〜10kmにマグマ溜りを作ります。マグマは温度や成分によって,粘り気(粘性)が大きく変化し,それによって噴火のタイプが違ってきます。溶岩ドームを作ったり,火砕流を発生させたりする粘性の大きなマグマの噴火から,さらさらの溶岩を流出させたりする粘性の小さなマグマの噴火まで実に様々なタイプの噴火があります。2000年3月の有珠山の噴火は,粘性の大きいマグマの噴火で地表を大きく変形させると共に火山灰や岩塊が放出されました(写真1)。また,2000年6月に始まった三宅島の噴火では粘性の小さなマグマから大量の火山ガスが放出されています。1888年(明治21年)の磐梯山の噴火はマグマの熱による水蒸気の圧力によって山体が吹き飛ばされるという噴火でした。外国の例ですが,2002年1月に起きたアフリカのニイラゴンゴ火山の噴火では,粘性が非常に小ないマグマが割れ目から大量に噴き出して,20km以上も離れた人口40万人のゴマ市街地の大半を厚さ2〜3mの溶岩で埋めつくしました(写真2)。このように噴火活動にはさまざまなタイプがあります。


2.火山災害の特徴

 火山災害という言葉は,噴火によって人命や建物などの財産が失われることをいいます。無人の広野で噴火があっても火山災害にはなりません。世界の火山の中には,噴火しても火山災害にならない事例も多く見られます。しかし,我が国のように人口が多く,人間の活動が火山の近傍にまで拡大している場合には,小さい噴火でも火山災害になる可能性が高くなってきました。本パンフレットの表紙にあるように福島県では,磐梯山,吾妻山,安達太良山を囲むように市や町が麓まで広がっています。これら3火山は,1888年(磐梯山),1893年(吾妻山),1899年(安達太良山)と明治の中頃の約10年間に連鎖反応的に噴火しました。今から100年以上も前の出来事で,噴火や災害のことは人々の記憶から忘れさられがちです。

 噴火タイプの違い等のため火山災害の種類も実に多様です。表は,1600年以降の火山災害による死者の数を噴火タイプや2次的原因別にまとめたものです。今日の生活様式に近い1900年以降をみると,死者の多いものは火砕流,岩屑なだれ,火山泥流によるものであることが一目瞭然です。これらは噴火に伴って岩片や泥が,時には熱風を伴って,時速数10km〜100kmの高速で流れる現象であり,近くの人間が逃げられないことを物語っています。1888年の磐梯山の噴火では水蒸気爆発に伴って山体が崩壊し,瞬時にして麓の村々を埋めつくしてしまった。明治以降の我が国の火山災害史上では最大の死者(461名)が出ました。火山災害の大小は,死者の数だけで計れない場合もあります。前述のニイラゴンゴ火山の噴火では死者の数は100名程度でしたが,大量の溶岩流が市街地の一部を埋め,大小の建物約6000棟が破壊され溶岩の流れた跡は廃墟となりました。そして10万人以上の人々が生活基盤を失いました(写真2)。2000年6月に始まった三宅島の噴火では,毎日多量の亜硫酸ガスが放出されているため,三宅島の人々は2年間にわたり離島をよぎなくされています。このように火山災害は,その種類や継続時間などが火山ごとに異なり,社会に与える影響もさまざまです。


3.火山噴火の予知

 噴火エネルギーは莫大なもので,人間がそれを止めることは不可能です。したがって,早めに噴火の起きる時間や場所を知り,避難等の対応をとることが災害を少なくする方法です。早めに危険を察知(噴火予知)し,危険な地域から遠ざかる(防災)ことが大切です。我が国では火山噴火の予知を目的とした研究観測が1970年代から計画的に実施に移されました。手探りの状態で始められた予知研究や体制作りも30年の経験をつみ,少しずつ進歩してきました。しかし,「いつ(時期)」,「どこで(場所)」,「どのくらいの(規模)」,「どのような(タイプ)」,「いつまで(活動の推移)」という噴火の全てを予知することはまだできません。現状では前兆現象を捉えて,噴火の時期を予知する成功例が増えてきました。しかし,噴火が活発化した際,今後どうなるのか,いつ終息するのかということについての予測はまだ困難です。天気予報や台風の進路予測と違い,火山噴火には未知の部分が多く未熟な状態にあるからです。噴火予知の確度を上げるには,噴火のメカニズムをより深く理解するとともに,火山の構造を正しく把握するなど火山観測に基づく基礎研究をもっとおし進める必要のあることを噴火予知に携る関係者は痛感しています。

 磐梯山での基礎研究の一例を簡単に紹介します。この火山は,その活動史を通じて,過去7回の山体崩壊とそれに伴う岩屑なだれがあったことが知られています。磐梯山ではなぜ,繰り返し山体崩壊を起すかを理解しなければ噴火の正確な予知は難しいといえます。この問題を解決するために私達は火山体の構造を調べ,地下に隠されたマグマの状態や形状を把握する大規模な人工地震探査を実施しました。それはちょうど火山のレントゲン写真を撮ってその内部を調べることに似ています。実験の結果,地震波速度の早い領域(4.8〜5.1km/sec)が山頂のやや東側を中心に地表付近に達している様子が明らかになりました(図参照)。この高速度の分布は,磐梯山ができる活動期のマグマの通り道(火道)であったことを物語っています。火道に残されたマグマからの熱がその後の水蒸気爆発のエネルギーを供給し,山体崩壊を起すような噴火の原動力となったと推測されます。

 2年前の2000年(平成12年)4月には磐梯山で火山性地震の回数が急増しました。また,有感地震や火山性微動も発生し,噴火に対する注意(臨時火山情報第1号)が喚起されました。これらの地震や微動の発生場所が前述のマグマの貫入した火道の周辺に位置していることから,新たなマグマの活動やそれに伴う周辺の岩盤の破壊に関連したものであることがわかりました(図)。このように最近の研究から磐梯山の地下で起きている火山活動の実体が少しずつ明らかになってきました。

4.ハザートマップの活用

 「備えあれば憂いなし」といわれるように,噴火が発生した場合,危険な地域はどこかを事前に知って対策を立てておくことは防災上で最も基本的な事柄です。過去の噴火の歴史等をもとに危険な地域を噴火現象ごとに地図上に示したものをハザートマップといいます。磐梯山,吾妻山,安達太良山では昨年から今年にかけてハザートマップが発行され,家庭やホテル等に配られました。マップには,予想される災害の範囲のほか避難経路や安全な避難場所が示されています。また,避難時の心得や各々の火山の特徴等も述べられています。地域の住民の方々は,自分の住んでいる場所の危険性の度合などを正しく把握すると共に,火山活動が活発化した時,いち早く危険な地域の外に逃げる方策を普段から計画しておくことが重要です。一方,地域の行政当局は,マップに描かれた災害要因をもとに避難訓練の実施や,災害に強い町づくりなど長・中期的視野から防災対応を実施に移すことが求められます。3つの火山では,ハザートマップの作成等は整えられましたが,噴火が起きた時の行政の取るべき初期対応や,噴火が終息した後の災害復興までの手順を盛り込んだ火山防災指針(ガイドライン)の準備はまだ着手されていません。福島市と吾妻山の関係でもわかるように,人口の稠密な県庁所在地のごく近くに活火山があります。大きな噴火が発生すれば都市型の災害に発展する可能性もあり得ます。ハザートマップの整備にとどまらず,行政と地域住民が一体となり,明日は我が身という思いで,火山災害に強いまちづくりに向けた取り組みが求められています。


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2002年11月,日本火山学会: kazan@eri.u- tokyo.ac.jp