火山についてのQ&A

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「Q&A火山噴火」

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Question #5506
Q 小生、趣味と健康をかねて里山歩きをよくし、最近は奈良県宇陀郡にこっています。歩く前にはカシミールで地図をよく見るのですが、室生寺のあるあたりはすっぽりと丸く陥没しているように見えるのに気づきました。このような地形はなぜできるのでしょうか。まさか隕石でもぶつかって出来たものではないかと思うのですが。よろしくお願いします。 (06/11/04)

青木敏之:社会人:68

A
 おっしゃるように確かに室生寺のある室生村室生の辺りの地形は一見丸い凹地になっています.しかし,隕石がぶつかってできたものではありません.結論 から言えば,あの地形は川の浸食に伴う地すべりや崖の崩壊によってできた地形と考えられています.
 凹地を取り囲んでいる急な崖は凝灰岩,つまり火山灰が固まったものによってできています.この辺りの凝灰岩は,地質学的には「室生火山岩類」と呼ば れ,火砕流が堆積したものです.火砕流と言えば10年ほど前に長崎・雲仙普賢岳の噴火に伴って多発していた火砕流が有名ですが,室生付近に分布する凝灰 岩を作った火砕流は,雲仙普賢岳で起こったものとは比べものにならないほど大規模なものだったと考えられ,同じ火砕流による堆積物は室生にも近い赤目四 十八滝や香落渓,曽爾高原あたりから奈良市春日山,大阪府柏原市の玉手山付近まで分布しています.奈良県曽爾村にある天然記念物「屏風岩」や「鎧岩」・ 「兜岩」もこの火砕流堆積物でできています.そのような大規模な火山活動は,今から約1400万年前に起こったものです.
 さて,このような成因をもつ凝灰岩はしばしば「溶結」という現象を起こします.溶結とは火山から噴出して堆積した直後に,火山灰に含まれる天然のガラ スが高熱によって日なたに置き忘れた飴のようにくっつき合う現象で,それが冷えると緻密な堅い岩石ができあがります.一方で,それと同時に冷えていくと きに体積が縮むために「節理」と呼ばれる割れ目が凝灰岩の中に地面に垂直に多数入ります.このような地域を川が流れて浸食が進むと,浸食されては崖が崩 れるということが繰り返し起こり峡谷が発達します.
 室生寺周辺の凹地形は,たまたま川が蛇行(曲流)していたためにその蛇行に沿って浸食が進み,それと同時に凝灰岩が崩壊を起こしたためにできた「地す べり崩壊性の凹地形」であろうと考えられています.そう思って地形図で室生川を見るとあちらこちらで蛇行をしていますし,川沿いには傾斜の急な崖が多く 見られます.大雨などが降ると崩壊が起こりやすいので,どうぞ気をつけて下さい.

参考文献:西岡芳晴・尾崎正紀・山元孝広・川辺孝幸(1998) 名張地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,72p.
 (6/18/04)

和田穣隆(奈良教育大学・地学教室)


May 2012. The Volcanological Society of Japan.  kazan-gakkai@kazan.or.jp