火山についてのQ&A

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「Q&A火山噴火」

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Question #20
Q 降下テフラの到達距離等に関していくつかお伺いしたいことがあるのですが、 降下テフラの到達距離と噴火マグネチュードの間にはどのような関係があるのでしょうか。例えば,噴火マグネチュードが6の場合,到達距離が80kmであるというようなおおまかな目安が存在するのでしょうか。また、降下テフラの到達範囲は噴火時の風向および風速に影響されると思うのですが,降下テフラの到達範囲への風の影響におおまかな目安が存在するのでしょうか。降下テフラの堆積厚は火山からの距離によって大きく影響されると思うのですが,火山からの距離と降下テフラの堆積厚の関係は数式で表すことができるのでしょうか。次に噴火マグネチュードについてお伺いします。個々の火山で発生する可能性のある最大規模の噴火マグネチュードが存在するのでしょうか。例えばある火山で発生する可能性のある最大規模の噴火は噴火マグネチュード5であるといったものは存在するのでしょうか,また、噴火マグネチュードごとの発生頻度を数値で表すことは可能でしょうか。それから噴火マグネチュードと火山爆発指数(VEI)の間にはどのような関係が成り立つのでしょうか。よろしくお願いします。
(5/22/97)

野元洋一:会社員:29歳

A 噴火マグニチュード(噴火M)は群馬大学の早川由紀夫さんが「噴出したマグマ の総重量を用いて噴火の規模を表現するとよい」と1993年に提唱されたもの で,具体的には噴火M=log(噴出マグマ質量kg)-7で求められます. さ て,ご質問の降下テフラの到達距離と噴火Mの関係ですが,ご質問のような単純 な目安や関係式は存在しません.なぜなら,噴火Mは噴出マグマの質量で決まり ますが,噴火によって生産されるテフラの量は噴火様式でずいぶん異なる上, 降下テフラの到達距離はご指摘のように主として上空の風速によって決定され るからです.たとえば,ハワイの火山のように溶岩をダラダラと流出し続ける ような噴火では,ほとんどテフラは生産されませんから,たとえ噴火Mが大き くとも遠くまでテフラを飛ばすようなことはありません.また,トータルとし て同じ量だけテフラが噴出しても,上空の風速は場所や季節によって大きく変 わりますから,降下テフラの到達距離もその時々で変わるわけです.したがっ て,降下テフラの到達距離と噴火Mに単純な関係を求めることはできないわけ です. 降下テフラの到達範囲と風の影響に関してですが,噴煙柱の高度を限 定し,特定の大きさのテフラ粒子に注目すれば,風速と到達距離のおおよその 目安は存在します.噴煙柱の高度に関する詳しい議論はとても難しいので省き ますが,特定の大きさのテフラ粒子に限定する必要があるのは,大きな粒子ほ ど風で遠くに運ばれる前に落下してしまうからです.Carey&Sparks(1986) によると,噴煙柱高度が20km・風速30m/sの場合,密度2500kg/m3・直径6.4cm の粒子は火口から約10km,密度2500kg/m3・直径0.4cmの粒子は火口から約30km それぞれ運ばれるということです. 火口からの距離と堆積厚についても,噴 煙柱高度,上空の風環境などによってそれぞれ変わってきますので,火口から の距離によって指数関数的に薄くなっていくということ以上にすべてのテフラ について完全に一般化できるような公式は存在しません.ただし,比較的短時 間に放出される1回の噴火によるテフラに限定すると,きれいな関数式で近似 できることがあるようです. 噴火Mは提唱されてから日が浅いため,個々の 火山で発生する可能性のある最大規模の噴火Mについて十分に検討された研究 例はないようですが,過去の噴火事例を集めていけば各火山において1回の噴 火で噴出しうるマグマの量をおおよそ見積もれるようになるかも知れません.
 噴火Mと発生頻度については,噴火Mの提唱者である早川さんが,1994年に最 近2000年間における日本の224の噴火事例をもとに考察しています.それによ ると,最近2000年の間に日本ではM=1級の噴火が47回,M=2級が46回,M=3級が 70回,M=4級が46回,M=5級が15回起こっています.古くて小さな噴火ほど収集 もれがあると考えられますから,M=1級やM=2級の噴火の頻度は実際にはもっと 高いものになると考えられます. 最後に噴火Mと火山爆発指数(VEI)の関係 についてです.VEIは爆発的噴火の定性的な記載から求められるものですか ら,溶岩だけを流出するような噴火の規模を示すことができません.これに対 し,噴火Mはマグマを噴出したどのような噴火の規模も表現できるという点で 優れています.両者の値を変換できるような関係式は存在しませんが,爆発的 噴火についてはVEIでも噴火Mでも噴火規模を評価できます.早川さんは,噴火 M提唱以前に広く受け入れられていたVEIに噴火Mの値が近づくように噴火Mの計 算式で7を引くようにしたそうです.したがって爆発的噴火だけの場合は,およ そVEI=噴火Mとなっています.

井村隆介(鹿児島大理学部)


May 2012. The Volcanological Society of Japan.  kazan-gakkai@kazan.or.jp