火山についてのQ&A

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「Q&A火山噴火」

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Question #180
Q 先日、伊豆諸島の神津島を旅行し、天上山へ登ってきました。1000年ほど火山活動は止まっているそうですが、不入ガ沢などの火口跡は生々しい風景でした。さて、山頂周辺に表砂漠・裏砂漠と呼ばれる谷がありますが、これは周辺の岩が風化して砂礫が生じているようです。すると、この砂漠地帯は今後広がっていくのでしょうか。それとも、千代池周辺のように緑化の方が進む可能性もあるのでしょうか。回答を参考にして、これからも観察してみたいと思っています。
(1/20/99)

中西 喜一郎:会社員:38

A
 天上山は,約1000年前(西暦838年)に噴出した流紋岩質の溶岩ドームと,一部( 西側の白島)は火砕丘から作られています.
  国土地理院発行の地形図を見ていただくとおわかりいただけると思いますが,天 上山はひょうたん形をしていて,複数(少なくとも2つ)の溶岩ドームが複合してい ます.天上山の表面は比高数十mの小さな起伏に富んでいますが,これは,溶岩ドー ムが広がるときに表面部に作られた一種の“しわ”です.この“しわ”の配列を基に ,天上山の溶岩ドームをさらに細かく区分することも出来ます.
 天上山を作っている溶岩ドームは,比較的発泡の良い流紋岩で,結晶の発達も悪く ,全体としてガラス質です.従って,通常の溶岩に比べると脆い岩石と言えます.


 ご指摘のように,天上山には植生が良く発達している地域と,植生がほとんど認め られず砂漠のようになっている地域があります.この砂漠の様になっている地域とい うのは,1)天上山西縁にあたる火砕丘の地域と,2)溶岩ドーム表層の“しわ”が 特に急峻な部分とその下部,に対応するようです.
 1)の火砕丘というのは火口から噴出した軽石や火山灰が堆積して出来たもので, もともと表層部は比較的崩れやすい地域です.それに加えて天上山の西縁にあたるこ とから,火砕丘表層の軽石が風化・分解した砂が強い季節風(冬季の西風)により移 動を繰り返すために,土壌の形成が悪いのではないかと考えられます.
 2)砂漠になっている地域は,溶岩ドーム表層部の“しわ”が特に急峻になってい ます.また,溶岩ドームの境界にもほぼ一致しているようです.これらの地域は崩落 した溶岩岩塊が厚く積み重なっているために,雨水が透過しやすいのではないかと考 えられます.
 つまり,天上山で植生に覆われていない地域は,上に挙げたような何らかの理由で 植物が進出し難い条件にあるのだと思われます.


 神津島は,流紋岩質の火砕流・火砕丘及び溶岩ドームからなる単成火山が集まって 出来た火山島です.船から眺めると,神津島は何段かの平坦なテーブル状の山が重な り合っているように見えます.これらは天上山とほぼ同様(含まれる鉱物の種類や量 に若干の相違はあります)の流紋岩質の溶岩ドームで,現在ではほとんど植生に覆わ れています.これらの溶岩ドームは,a)噴火後長期間を経た事と,b)のちの噴火活 動によって放出された火山灰が溶岩ドームの表面を覆ったため,土壌の発達が良くな った事などによると考えられます.天上山に広がる植生の乏しい地域も,短期的に見 れば若干広がることもあるかもしれませんが,長い目で見れば,徐々に縮小し,ゆく ゆくは天上山も植生に覆われてゆくものと思われます.

==ご参考まで,神津島の地質図が発行されています.== 一色直記「地域地質研究報告(5万分の1図幅) 神津島地域の地質」,通産省 工業 技術院 地質調査所発行,昭和57年,2400円
 内容は,専門的ですので,難解かもしれません.もし御興味がありましたら,書店 に注文していただくことで,ご購入いただけます. (1/22/99)

伊藤順一(工業技術院・地質調査所・環境地質部)


May 2012. The Volcanological Society of Japan.  kazan-gakkai@kazan.or.jp