火山についてのQ&A |
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Question #137 | |
Q |
フィリピンのピナツボ山や磐梯山が噴火した際、その噴出物によって日射量が
減少し、地球規模で異常気象になったと聞いています。その程度の噴火で異常気象に
なるのなら、支笏カルデラや姶良カルデラができたころの気象変化はすさまじいもの
ではないかと思えるのですが、過去にそのような火山噴火が原因の激しい気象変動は
あったのでしょうか。また、恐竜絶滅の原因として有力視されている巨大隕石の
衝突による気象変動とどちらが激しいのでしょうか。
(10/8/98) |
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A |
まず,問題を整理しておきます.Question#18の回答にも書いたように,気候変化 が起きるためには,日射をさえぎる物質が火山噴火によって成層圏に大量に注入され る必要があります.また,火山灰よりもむしろ二酸化硫黄などのガスの方が,長期間 にわたって気候に影響をあたえやすいことがわかっています.よって,火山噴火と気 候変化の関係を考えるためには,ある噴火について (1)どのくらいの噴出物が地表に出たか(噴出量) (2)噴出物中に,気候変化の原因となるガスがどのくらいの割合で含まれていたか の2点が重要となります. 世界中の火山で過去に起きた噴火の噴出量を調べるためには,群馬大学早川研究室の http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/catalog/index.html http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/catalog/index2.html が便利です.ここには各噴火の噴火量が「噴火マグニチュードM」として示されてい ます.Mは,噴出量(kg)の対数から7を減じた値です. 歴史上,実際に気候に顕著な変化(寒冷化)をあたえた噴火として,インドネシア のタンボラ火山の1815年噴火(M=7.1)やアイスランドのラキ山の1783年噴火(M =6.4)が有名です.ピナツボ火山の1991年噴火はM=5.8です. ご指摘の姶良カルデラの2万6000年前の噴火はM=8.3,支笏カルデラの4万1000年 前の噴火はM=7.2と巨大ですから,当然気候変化との関係が疑われます.しかし, 最初に述べたように,噴出物中に気候変化の原因物質がどのくらい含まれていたかが 重要ですから,噴出量だけから単純に判断するわけにはいきません. 噴火時にどの程度の原因物質が含まれていたかの推定には,熟練した測定技術が必 要です.また,実際に気候変化があったかどうかについての記録を地層や氷床中から 調べる研究にも,さまざまな困難がともないます.このようなテーマを研究する研究 者の数も不足しています. 以上のような理由から,火山噴火と気候変化の関係については,いまだに一級の研 究テーマであり,古い時代のことほど情報が不足している現状です.ご指摘の姶良や 支笏の噴火についても未解明の部分が多く,まだ確固とした答が得られていないと思 います. また,ご指摘のような恐竜に代表される多数の生物種を絶滅させた気候変動は,個 々の火山噴火が起こすものよりも,長く深刻なものであったと考えられます.なぜな ら,その時点を境として世界中の地層中の化石種の構成が変化しているからです.こ のような生物相の大きな変化は,ここ数万年間の火山噴火にともなったものとしては 知られていません. なお,1995年頃までの研究成果は, 新版地学教育講座2「地震と火山」東海大学出版会,160-164ページ によくまとめられていますので,ご覧ください.また,ご指摘の磐梯山の1888年噴火 は,M=3.4の水蒸気爆発と山体崩壊を主とする噴火であり,地球規模の気候変化は 起こしていないとみられます. (10/8/98) 小山真人(静岡大学・教育学部)
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