火山についてのQ&A

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「Q&A火山噴火」

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Question #119
Q 私は実家が鹿児島で子供のころ桜島に住んでいたこともあります。先日お盆に帰省した時、阿蘇を経由して帰っ たのですが火口を覗けるところまで行けるのでびっくりしました。予兆もなく突然噴火する心配はないのでしょ うか?また、桜島は玄武岩質の溶岩で粘土が高いため大正3年に爆発した際には溶岩でたばこの火をつけたとい うようなエピソードも聞きましたが阿蘇の溶岩はどうなのでしょうか?それぞれの溶岩の組成なども併せて教 えてください。
(8/29/98)

宮口雅史:会社員:441

A ご質問は以下の二つのポイントであろうと思います。 (1)噴火の際には何らかの予兆現象があるか? (2)阿蘇と桜島とでは噴出物の組成などが違うのか?
 まず(1)に関してですが、一口に「噴火」といってもいろいろな時間スケ ールの現象を含んでいます。ご質問の文章から推測しますに、阿蘇での場合 で、特に生命の危険を感じるような爆発について予兆があるのかというご質 問であろうと思います。
 阿蘇の場合で一番注意しなければならない破壊力の大きい「噴火」のタイプ は、火口直下の過剰な水蒸気圧が引き起こす水蒸気爆発です。この水蒸気爆 発では火口内部に堆積した岩の塊を大量に吹き飛ばします(このタイプの活 動は規模が小さくて噴出物が火口の縁を越えない場合には「土砂噴出」と阿 蘇では表現されています。噴出物が火口の縁を越えるとはじめて「噴火」と いう扱いをされます)。阿蘇での犠牲者の多くはこのような破壊的な活動に遭 遇しています。少なくとも、阿蘇の場合ではいわゆる「噴火」のまえには (阿蘇の場合は「噴火」と表現された場合に必ずしもマグマが直接に関与し ていない現象も含まれています。)、火山性微動の一時的な停止現象がある ケースが経験的に知られています。しかし、かならず火山性微動が噴火の前 に止まるかというとそうでもなく、突如として土砂噴出の発生をを見るケー スがあります。また、火山性微動が急に止まったとしても必ず土砂噴出が起 きるとは限りません。また、火口の縁にいる観光客の皆さんが気がつく予兆現 象が表面で起こるかどうかという点についても、はっきりしたものはかならず しも現れません。
 現在の火山観測体制では地殻変動の観測データや火山の周辺に起きる地震の 震源の分布の推移を手がかりにして、活動期が近づいてきたかどうかの判断 はできる水準に達しています。しかし、何時何分に阿蘇中岳火口で水蒸気爆 発がおきるか、という個別の爆発的な活動の予測ができるところにまでは到達 していません。ですから、阿蘇の中岳火口は本来危険な場所でありますし、 噴火の危険をまず頭の中に思い浮かべておいでなのは、健全なことと思いま す。阿蘇と桜島を比較した場合には阿蘇の方が爆発の規模が小さいのです が、火口の直近まで人間が近づける分、災害が発生しやすい条件がありま す。
 また、阿蘇と桜島の違いは爆発の規模ばかりではなく、溶岩の組成にも差が 認められています。一番大きな差が珪酸分(SiO2)の含有量の差です。桜島の 比較的最近の溶岩では重量比で60から62%が珪酸分ですが、阿蘇の中岳を含む 中央火口丘(山体を構成する)噴出物では52〜54%のグループと67%のグループ とが存在すると言われています。また、阿蘇で特筆すべき特徴としてはカリウ ムの含有量が多いことなのだそうです。珪酸含有量などから推測すると阿蘇 の溶岩は桜島のそれに比べて粘性が少ない可能性がありますが、阿蘇の中岳 に関しては有史以来の溶岩流の流出が記録されていません。1933年〜35年の 大活動期には阿蘇でもハワイの火山のような流動性に富んだ溶岩湖が火口底 に存在していたという記録がありますが、桜島の例のように溶岩流あるいは 溶岩に近寄って観測した例は手元の記録にはありませんでした。 (9/1/98)

筒井智樹(京都大学・理・球熱学研究施設火山研究センター)


May 2012. The Volcanological Society of Japan.  kazan-gakkai@kazan.or.jp